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福岡高等裁判所那覇支部 昭和52年(ネ)57号 判決

控訴人(原告) 金城良信 外八名

被控訴人(被告) 国

主文

一  原判決中控訴人与儀宏充に関する部分を左のとおり変更する。

被控訴人は、同控訴人に対して八六九一円とこれに対する昭和五〇年六月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原判決中控訴人金城良信、同新城巧善、同大村吉光、同高良哲夫、同上間洋子、同吉浜清治、同護得久朝栄、同平良吉雄に関する部分を取り消す。

被控訴人は、同控訴人らに対し、それぞれ別紙(c)欄記載の各金員とこれらに対する昭和五〇年六月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人ら代理人は、主文同旨の判決と仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決と請求を認容して仮執行宣言を附する場合の担保を条件とする仮執行免脱宣言を求めた。

二  当事者双方の主張および証拠の関係は、左に附加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

(一)  主張

1  控訴人ら

(1) 基本労務契約第七章A節1によると、年次有給休暇取得の要件は、「常用従業員であること」だけであり、労働基準法三九条に定めるような一定期間の勤務の継続や一定割合以上の出勤率は、要件とされていない。そして同節2前段によると「常用従業員」は、一暦年について二〇日間の年次有給休暇を取得することになる。

被控訴人は、同節2前段は、比例按分方式を定めていると主張するが、それは失当である。

すなわち同2節前段の「満一暦年につき」とは、一月一日から一二月三一日までの間にということで、年次有給休暇の行使期間を定めているにすぎず、「八時間勤務二〇日の割合」というのも、「一日八時間勤務として二〇日分」という趣旨である。右文言から「在籍期間に応じて取得される」とか、更に勤務期間が満一暦年に満たない場合は、按分によつて削減するという趣旨まで含むと解することは不可能である。

もし同節2前段が比例按分方式を採用しているとすれば同節2中段の中途採用者に対する規定を特に設ける必要はないことになり、他方中途退職者に対する割合の計算方法(月割か日割か、端数の処理等)や、退職時、既に割合を超えて休暇をとつていた者に対する調節規定を欠き実際に適用できないことになる。

(2) 同節2中段は、中途採用者に関する規定であり、年次有給休暇に関して異なつた取扱をすべき十分な理由のある中途退職者に対して類推適用することは許されない。

(3) 現行基本労務契約の給与と休暇の項は、昭和三八年一月一日付で改定されたものであるが、その際、被控訴人は、「常用従業員として一月一日に在籍しておれば、その年の年次休暇二〇日は無条件で与えられる。」との確認を行なつた。

(4) ところが右改定後、各米軍施設において月割による按分をする例があつたので、全駐労、防衛施設庁、米軍が協議を行ない、その結果、米軍契約担当官から契約担当代理者に対し、昭和四一年五月一七日付MLC書信8―66が、防衛施設庁労務部長から各都道府県の渉外労務主管部長に対し、同年六月八日付「MLC書信8―66の送付について」という文書が、各発せられ、その中で人員整理予定の従業員に対しては、月割計算による按分比例をしないことを明らかにしている。

2  被控訴人

(1) 先ず基本労務契約第七章A節1(資格の取得)と2(計算)の規定を検討するに、1の規定は、単に年次有給休暇を取得するのは、「常用従業員」であることを示しているにすぎず、同章B節の月例休暇を与えられる「特殊期間従業員」と区別するためにおかれている注意規定であつて、「常用従業員」に与えられる年次休暇の日数とその計算方法は2の規定によるべきである。

同節2前段は「満一暦年につき、八時間勤務二〇日の割合で取得する。」と定めており、その表現上、比例按分方式によることを明らかにしている。そして中途退職者に対しては、中段の規定を準用して月割按分により、休暇が与えられることになる。

同節2中段は、中途採用者に与えられる年次有給休暇の日数について定めているが、特に中途採用者に対して規定を設けた趣旨は、基本労務契約上の年次有給休暇制度が、計算単位として、一暦年(一月一日から一二月三一日までの満一年間)を採用し、基準日を一月一日にしているので、基準日に在籍しない中途採用者が、その年度の年次有給休暇を取得できるかについて、疑問があり、それに答えて採用の月とその暦年の残りの各月について、一二分の二〇の割合で与えられることを明らかにしたことにある。

同節2後段は、中途採用者と中途退職者に対して与えられる休暇日数の端数計算について定めている。

(2) 中途採用者と中途退職者は、満一暦年勤務しないという点において、全く同じで、両者を区別して取り扱うべき合理的な理由はない。

(3) 昭和三八年一月一日付改定に際し、全駐労側の「……、無条件に与えられると思うがどうか。」との質問に対して、「貴見のとおりである。」と回答しているが、右のように回答したのは、防衛施設庁側において、質問の趣旨を「就労実績に対応して与えられていた条件が廃止され、在籍しておれば無条件に与えられるか」と理解したためで、中途退職者の場合も考慮してなされたものではない。従つて右確認をもつて、中途退職者の年休日数の算定の判断資料とするのは相当でない。

(4) MLC書信8―66には、「人員整理される予定の従業員に未使用の年次休暇をできる限り多く与えなければならない。」と記載されているが、右記載も、改定後の基本労務契約において、中途退職者は権利として二〇日の年次休暇を取得するものではないことを示している。右書信は、「できる限り多く」与えるようにとの努力目標を定めたにすぎない。

(二)  証拠〈省略〉

理由

一  控訴人らが、沖縄に所在する米軍基地に常用従業員として勤務していたこと、被控訴人が、沖縄の本土復帰に伴い、昭和四七年五月一五日以降、地位協定一二条四項に基づいて日米両国政府間において締結された基本労務契約の定めるところにより、控訴人らを含む米軍基地従業員の法的雇用主となつたこと、控訴人らは、同五〇年二月二六日に解雇予告を受け、同年六月三〇日をもつて解雇されたが、同年度中、別紙(a)欄記載のとおり、同欄記載の日までに同欄記載の時間の年次有給休暇を行使したうえで、同(a)、(b)欄記載のように年次有給休暇を行使したところ、右については年次有給休暇の行使と認められず、欠勤したものとされ、就労しなかつた時間に相当する賃金額である同(c)欄記載の各金員について、給料支払日である同年六月一二日にその支払を受けることができなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  控訴人らは、暦年中途に退職した者も二〇日の年次有給休暇を取得すると主張し、被控訴人は、在職した期間に応じて比例按分した日数(控訴人らの場合は一〇日)の年次有給休暇しか与えられないと抗争するので判断する。

(一)  控訴人らの労働条件について定めている基本労務契約の第七章A節(以下単にA節という。)に左のとおりの休暇に関する規定があることは当事者間に争いがない。

1  「資格の取得年次休暇の権利は常用従業員に与えられるものとする。」

2  「計算年次休暇の権利は、満一暦年につき、八時間勤務二〇日の割合で取得するものとする(以下前段の規定という。)。一暦年中に常用従業員として採用された従業員は、常用従業員として採用された月及びその暦年の残りの各月につき、一二分の二〇の割合で休暇を与えられるものとする(以下中段の規定という。)。前記のように計算した休暇で、半日未満の端数は切り捨てるものとし、半日以上の端数は満一日とみなすものとする(以下後段の規定という。)。」

また原本の存在と成立に争いのない甲第一〇号証(基本労務契約写)によると、A節3「休暇の使用」において、年次休暇は、原則として、その取得した暦年内に使用しなければならない旨定められていることが認められる。

ところで右年次休暇に関する規定は、証人坂西栄蔵の証言(当審)によると、昭和三七年一二月一〇日附属協定六九号により改定されたことが認められるが、その経緯は次のとおりである。

右坂西証言により真正に成立したものと認められる甲第一一号証、原本の存在と成立に争いのない乙第一三号証、右坂西証言によると、右改定前の有給休暇制度においては、月例休暇が与えられ、従業員は、一月間に八割以上の勤務をすれば一六時間、四割以上八割未満の勤務の場合は八時間の有給休暇を取得することができ、また未使用の休暇については買上制度も採用されていたこと、右休暇に関する改定は、基地従業員に、国家公務員に準ずる給与制度を適用することに改めた際に行なわれたものであるが、基地従業員をその構成員とする全駐労側は、当初、休暇日数が二四日から二〇日に短縮され、買上制度も廃止されることになるので、労働者にとつて不利益になるとして反対し、防衛施設庁側と折衝を続けたが、国家公務員に準ずる給与制度の導入により利益を受けることや、防衛施設庁担当官から「一月一日に在籍していれば、その年の年次休暇二〇日は、無条件に与えられる。」との確認を得たこと、買上制度についても経過措置が設けられたこと等があつたので納得したことが各認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで右年次休暇に関する規定を検討するに、年次休暇を取得する者が、「常用従業員」であることは明らかである。今「常用従業員」が年度中途で退職した場合に、退職者の取得する年次有給休暇の日数について争われているが、中途退職者に関する直接の規定は存しない。そうすると、休暇日数についての一般的規定と解されるA節2前段の規定の解釈によることになるが、右は必ずしも明確な規定とは云い難く、同規定のみから、中途退職者の取得する年次有給休暇日数(つまり在籍期間に応じて比例按分するか否か)を確定することは困難である。

そこで右に認定した改定の経緯や、関連規定を考慮しつつ検討するに、先ず月例休暇から年次休暇へ移行するに際し、一定期間の勤務ないしは在籍、および一定割合以上の出勤率は要件とされなくなり、「常用従業員」であることが、唯一の年次有給休暇取得の要件となつたこと、他方年次有給休暇は、取得した年度内で使用しなければならず、未使用の休暇の買上制度はなくなり、原則として休暇の次年度への繰越しも認められないこと、また右甲第一〇号証により、A節4(休暇の予定表の作成)、5(休暇の承認)の規定を見ると、従業員は、既に在籍した月数を考慮せずに年次有給休暇を使用することができ、従つて中途退職者が月割等の按分を越える日数を休暇として使用することは、当然考えられるのに、基本労務契約(右甲第一〇号証はその写)中右のような場合の調整規定はないこと等が明らかであり、以上の諸事情および関連規定に鑑みると、A節2前段の規定は、A節1の規定と併せて、常用従業員(但しA節2中段、後段の規定によつて、中途採用は除外されることになる。)は、一暦年間に使用できる年次休暇八時間勤務として二〇日分を取得することができるとの趣旨に解するのが相当である。

従つて前年度より引き続いて勤務する常用従業員は、一月一日に八時間勤務として二〇日分の年次有給休暇を確定的に取得すると云うべきである。

右に認定した防衛施設庁担当官の確認も、その趣旨に解することができる。けだし年次有給休暇の取得が按分比例によるとすれば、一月一日在籍の常用従業員は、退職を解除条件として二〇日の年次有給休暇を取得することになり、無条件で取得するとは云えないからである。

(二)  ところで年度中途に採用された常用従業員に関しては、A節2中段、後段の規定があるが、中途退職者に対しても右規定を類推適用して中途退職者の既に取得した年次有給休暇を削減することができるかが問題となる。

前年度より常用従業員であつた者は、前記のとおり既に一暦年中に使用できる年次有給休暇二〇日を確定的に取得しているのであるから、それを削減することは明文の規定によるべきであつて、事情の異なる中途採用者に関する規定を類推適用することは妥当でない。また年次有給休暇には、労働者の過去の勤務に対する一種の報償という面もあることは否定できないから、中途退職者を、年次有給休暇について、中途採用者より優遇しても、公平に反するとまでいうことはできない。

(三)  次に契約当事者の意思について考えるに、成立に争いのない乙第八、九号証(第九号証は原本の存在と成立)によると、米国側が、中途退職者には在籍期間に比例して按分した休暇日数しか与えられないとの見解を有していることが認められる。

しかし争いのない事実によると、控訴人らと同様に米国陸軍に勤務し、昭和五一年度に解雇された者で、在籍期間に比例按分した日数を越える年次有給休暇を使用した者がいること、前記坂西証言と同証言により真正に成立したものと認められる甲第九号証中各引用部分(弁論の全趣旨により引用部分と同一の内容を持つ各文書が存在することが認められる。)によると、昭和四〇年頃、基地従業員の人員整理で、年度中途退職者の取得する年次有給休暇の日数を巡つて紛争が生じ、米軍側と防衛施設庁側とで交渉がなされ、その結果、米国側契約担当官より全担当官代理者へ同四一年五月一七日付でMLC書信が発送され、それには「人員整理される予定の従業員に未使用の年次休暇をできる限り多く与えなければならない。」旨記載されていたことが認められることから、米国側が一貫して、中途退職者には、比例按分した年次有給休暇日数しか与えられないとの見解を有していたかは疑問の残るところであり、年次有給休暇日数に関する前記判断に照らしても、米国側の右見解が、前記基本労務契約改定の際に双方合意のうえ契約内容となつたとは考え難い。

また被控訴人も、前記改定時における防衛施設庁担当官の確認や右甲第九号証の引用部分により認められる「防衛施設庁労務部長より渉外労務主管部長宛書信」の記載内容から推測すると、比例按分による日数を年次有給休暇として与えるとの見解を有していたとは思えない。

(四)  なお附言すると、被控訴人主張のように中途退職者に対し、在籍期間に比例按分した日数を年次有給休暇として与えるとすれば、中途退職者の中で労働基準法三九条の定める日数に満たない年次有給休暇日数しか取得できない者も出て来る(弁論の全趣旨によると控訴人平良を除く他の控訴人らは該当することが認められる。)。そうすると、これらの者に関しては、年次有給休暇の最低日数を定める右条文に違反することになろう。

三  以上のとおり控訴人らは、別紙(b)欄記載の各時間を年次有給休暇として利用することができるのであるから、被控訴人は、右各時間を欠勤として扱い、それらに相当する賃金の支払を拒むことは許されず、控訴人らに対して、別紙(c)欄記載の各未払賃金とこれらに対する賃金支払日の翌日である昭和五〇年六月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつてこれと異なる原判決を、控訴人与儀宏充に関しては変更し、その他の控訴人らに関しては取り消すこととし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用し(なお仮執行宣言は相当でないから、附さないことにする。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 門馬良夫 比嘉正幸 新城雅夫)

(別紙省略)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 被告は原告与儀宏充に対し、金二一七三円及びこれに対する昭和五〇年六月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二 原告与儀宏充のその余の請求及びその余の原告らの各請求は、いずれもこれを棄却する。

三 訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一 原告らの請求の趣旨

1 被告は、原告各自に対し、別紙一(c)欄記載の各金員、及びこれらに対する昭和五〇年六月一三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行の宣言。

二 請求の趣旨に対する被告の答弁

1 原告らの請求は、いずれもこれを棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

3 担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者双方の主張

一 原告らの請求原因

1 原告らは、いずれも、沖縄に所在する米軍(陸軍関係)基地に常用従業員として勤務し、昭和五〇年二月二六日に解雇予告を受け、同年六月三〇日をもつて解雇された者であり、被告は、沖縄の本土復帰に伴い、同四七年五月一五日以降、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下、地位協定という。)一二条四項に基づいて、日米両国政府間において締結された基本労務契約の定めるところにより、原告らを含む在日米軍基地従業員の法的雇用主となつた。

2 原告らは、昭和五〇年中、別紙一(a)欄記載のとおり、同欄記載の日までに同欄記載の時間の年次有給休暇を行使した上で、同一(a)(b)欄記載のように、年次有給休暇を行使したが、右については、年次有給休暇の行使と認められず、原告らが就労しなかつた時間について欠勤したものとされ、これに相当する賃金額である別紙一(c)欄記載の各金員について、給料支給日である昭和五〇年六月一二日、その支払を受けることができなかつた。

3 原告らは、次に述べるとおり、年度途中で退職した昭和五〇年度においても、八時間労働二〇日間の年次有給休暇権を有していたものである。

(一) 在日米軍基地従業員の休暇について、前記基本労務契約第七章A節1及び2は、別紙二のとおり規定し、年度途中で退職する者に与えられる年次有給休暇の日数については、何ら明文の規定がないところ、同節2の規定の文理からは、一月一日に在籍する常用従業員は、当該一暦年に二〇日間(一六〇時間)の年次有給休暇を取得するものと解釈できる。

(二) 労働基準法三九条に関するものではあるが、最高裁判所の判例(最高裁判所昭和四八年三月二日第二小法廷判決民集二七巻二号一九一頁参照)も行政解釈(昭和四九年一月一一日付労働省労働基準局長通達基収五五五四)も原告らの右(一)の主張に沿うものである。

(三) 駐留軍等のために労務に服する者の労務管理に関する事務を担当している防衛施設庁労務部は、昭和四九年五月二二日、原告らが属する全沖縄軍労働組合との団体交渉の際、原告らの前記(一)の主張を肯定する旨の意見を表明していた。

(四) 原告高良は昭和五〇年五月五日までに八八時間の、原告平良は同年四月一七日までに八三時間の年次有給休暇を既に行使していたし、原告らと同様に米陸軍に勤務し、九〇日前に解雇予告を、四五日前に解雇通知を受けた上、昭和五一年六月三〇日に解雇された者で、同年一月一日から退職時までに一一六時間から一六〇時間の年次有給休暇の行使を認められた者が五名あり、また、同じく、米陸軍に勤務していた訴外外間裕は、昭和五〇年六月三〇日付をもつて解雇される旨の予告を受け、実際には、同年九月一三日付で解雇になつたが、同年六月末日までに一四七時間、退職時までに一五五時間の年次有給休暇の行使が認められた。

なお、米軍普天間マリン航空隊及び将校メスホールに勤務する常用従業員に関し、四五日前に解雇予告を受け、昭和五一年六月三〇日に解雇された者のうち、二二名について、同年一月一日から退職時までに一四〇時間から一六〇時間の年次有給休暇の行使が認められている。

4 そこで、原告らは、被告に対し、別紙一(c)欄記載の金額の賃金、及びこれらに対する支給日の翌日である昭和五〇年六月一三日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

二 請求原因に対する被告の認否

1 請求原因記載第1項の事実は認める。

2 同第2項の事実は認める。

なお、後述のとおり、原告らは、いずれも、一〇日間(八〇時間)の年次有給休暇を取得するのみであつたので、原告主張のような取扱いをしたものであり、原告与儀宏充は、昭和五〇年六月二六日、残る四時間の年次有給休暇を行使し、それについては、賃金の支給を受けている。

3(一) 同第3項(一)中、基本労務契約の規定が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。

右契約の解釈からすれば、原告らが昭和五〇年度において取得する年次有給休暇は、一〇日間(八〇時間)である。即ち、同契約第七章A節2前段の規定によれば、常用従業員に対する年次有給休暇は、「満一暦年につき二〇日の割合」で与えられるものとされるが、「割合」という文言が使用されていることからして、従業員の在籍期間に応じて取得される右休暇の日数が定まるものと解すべきである。更に、同項中段の規定によれば、年度途中に採用される常用従業員に対しては、採用された年度には、採用時から年度末までの在籍期間に比例する日数の年次有給休暇が与えられるものとされているが、これとの均衡からも、年度途中に退職することが予定されている者に対して与えられる年次有給休暇の日数は、その常用従業員として在籍する期間に応じて定められるべきである。

(二) 同項(二)の主張は争う。原告ら指摘の判例及び行政解釈は、いずれも、二〇日間の年次有給休暇権を取得している従業員が中途退職する場合の問題を扱つたものであるが、本件においては二〇日間の年次有給休暇権を取得しているか否かが争点なのであるから、これらは、参考にならない。

なお労働基準法三九条は年次有給休暇についての最低基準を定めているから、その定めより労働者に有利な基準を当事者間で合意することは許されると解され、本件基本労務契約の規定は、同法の定める基準よりも、労働者にとつて有利であるから、同法に違反するものということはできない。

(三) 同項(三)の事実は認める。これは、努力目標を表明したものである。

(四) 同項(四)の事実中、原告高良、同平良、原告らの主張する昭和五一年六月三〇日に解雇された者のうちの五人及び訴外外間裕について、原告ら主張のとおりの取扱いがなされたことは認める。これらは、いずれも、年次有給休暇に関する事務を担当していた下部監督官の意図的でないエラーである。

なお、米海軍及び空軍においても、陸軍と同様に、年度途中の退職者の年次有給休暇については、被告主張の如き按分方式が採られている。

第三当事者双方の証拠関係〈省略〉

理由

一 請求原因第1、2項の事実は、当事者間に争いがない。

二 本件における争点は、昭和五〇年六月三〇日付をもつて解雇された原告らが同年度において取得したと見るべき年次有給休暇の日数の点にあるところ、地位協定一二条四項に基づき日米両国政府間において締結された基本労務契約第七章A節1及び2には、別紙二記載の規定が置かれていることは、当事者間に争いがなく、右規定によれば、常用従業員は、一暦年に二〇日間(一六〇時間)の年次有給休暇を取得し、年度の途中で常用従業員として採用された者には、採用された月及びその暦年の残りの各月につき、一二分の二〇の割合で休暇が与えられるものとされているが、休暇に関して定めた同節中には、年度の途中に退職することが予定されている常用従業員に対し、与えられるべき年次有給休暇の日数については、何ら明文の規定が置かれていないから、右日数を決定するに当たり、考慮すべき事項について、順次、検討を加えることとする。

1 まず、休暇に関する規定の文言について見るに、前出の基本労務契約第七章A節1及び2前段の規定によれば、常用従業員は、「満一暦年につき、八時間勤務二〇日の割合で」年次休暇を取得するものとされ、常用従業員は、各人雇傭の期間及びその始期に関わりなく、一律に、暦年を単位とし、かつ、満一年につき、二〇日間の年次有給休暇を与えられるものとされていることがうかがわれ、また、同節2中段の規定によれば、暦年の途中で常用従業員として採用された者に対しては、採用された暦年の残りの期間に応じて所定の年次有給休暇が与えられるものとされている。右のとおり、同節2前段の「満一暦年につき」の文言及び同節2中段の内容を見ると、右基本労務契約においては、年次有給休暇の日数は、常用従業員の常用従業員として在籍することが予定される期間に対応し、又は、少なくとも、右期間に十分な関心を払つた上で、定められていることがうかがわれる。

ちなみに、労働基準法三九条においては、「一年間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した」労働者は、「六労働日」の有給休暇が与えられるものとされ、労働者の今後の在職期間に対する関心は格別払われておらず、専ら過去の労働の状態にかんがみて、有給休暇を与えるべきことを、使用者に対し、求めていることがうかがわれる。

2 つぎに、従前の沖縄に所在する米軍基地に勤務する常用従業員が年度途中で退職する場合に与えられていた年次有給休暇の日数について見るに、昭和五〇年六月三〇日付をもつて退職した原告高良が同年五月五日までに八八時間、同平良が同年四月一七日までに八三時間の年次有給休暇を既に行使していたこと、原告らと同様に米陸軍に勤務し、九〇日前に解雇予告を、四五日前に解雇通知を受けた上、昭和五一年六月三〇日に解雇された者で、同年一月一日から退職時までに一一六時間から一六〇時間の年次有給休暇の行使を認められた者が五名おり、また、同五〇年六月三〇日付をもつて解雇される旨の予告を受け、実際には、同年九月一三日付で解雇になつた訴外外間裕が六月末日までに一四七時間、退職までに一五五時間の年次有給休暇を行使したことは、いずれも、当事者間に争いなく、米軍普天間マリン航空隊、将校メスホールに勤務する常用従業員に関し、四五日前に解雇予告を受け、同五一年六月三〇日に解雇された者のうち、二二名について、同年一月一日から退職時までに一四〇時間から一六〇時間の年次有給休暇の行使が認められたことは、被告において、明らかには、争わないから、右事実は、自白したものとみなすべきであるが、右事実のみをもつて、年度途中で退職する常用従業員は、二〇日間の年次有給休暇を行使することが認められていたものということはできない。また、沖縄の本土復帰に伴い、基本労務契約が適用されるようになつて以後、年度途中で退職した常用従業員に対し与えられる年次有給休暇に関し、証人神山操の証言中には、昭和四九年三月までは、年次有給休暇の行使に対する規制がなかつた旨を供述する部分があるが、右証言は、右の者らに対し、二〇日間の年次有給休暇が与えられるような運用がなされていたという趣旨を含むものではなく、かえつて、右証言によれば、米軍は、右の者らに対しては、二〇日間の年次有給休暇が与えられるものではないという見解を有していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、他に、年度途中で退職する常用従業員に対する休暇の取扱いに関し、二〇日間の年次有給休暇が与えられる運用がなされていたことを認めるに足る証拠はない。

なお、防衛施設庁労務部長から都道府県の渉外労務主管部長に宛てた「MLC書信8―66(年次休暇)の送付について」と題する昭和四一年六月八日付発信の文書の写であることが弁論の全趣旨により認められる甲第九号証の引用部分によれば、本土に所在する米軍基地に勤務する労働者について、その者が年度途中で退職することが予定される場合には、その者に対する年次有給休暇は、月割計算による按分比例で与えられていたこと、右文書により、これを廃して、「できる限り多く」年次有給休暇を与えるべき旨を要請していることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、右文書にいう「月割計算による按分比例」の休暇は、退職時まで、一ケ月ごとに、一二分の二〇日を与えられていたのか、又は、退職時までの在職期間に対応する日数の範囲内でまとめて行使することが認められていたのか、いずれとも明らかでなく、また、「月割計算による按分比例を廃し」て、「できる限り多く年次休暇を与える」という趣旨も、二〇日間全部を与えられるべきことを意図しているものと解することもできないので、右証拠によつて、年度途中で退職する従業員に対し、二〇日間の年次有給休暇が与えられていたことを認めるには足りないものといわなければならない。

3 また、つぎに、被告の契約事務担当者の意思について見るに、防衛施設庁労務部の担当者が昭和四九年五月二二日、全沖縄軍労働組合との団体交渉の際、年度途中で退職する常用従業員に対しては、二〇間の年次有給休暇が与えられるべきであるとする原告らの主張と同旨の意見を表明したことは、当事者間に争いなく、証人神山操の証言によれば、同庁は、米国側に対し、年度途中で退職する常用従業員に対しては、二〇日間の年次有給休暇が与えられるべき旨を主張して交渉していることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、米国側が右と異なる見解を有していることは前認定のとおりであり、在日米陸軍規則であることにつき当事者間に争いない乙第八号証及び米国海軍契約担当官の覚書の写であり、その原本の存在及び成立につき争いない乙第九号証の一、二によれば、米国は、陸軍、海軍ともに、年次有給休暇は、常用従業員として在籍する期間に応じて与えられるものと解していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右のとおり、契約の文言からは、年次有給休暇の日数が、常用従業員として在籍することが予定される期間に関心を払つた上で定められていると見られること、従前の取扱いにおいても、年度途中で退職した常用従業員に対し、二〇日間の年次有給休暇の行使が容認されていたものと認めるに足る証拠はないこと、契約の一方の当事者である米国の契約事務担当者は、右常用従業員に対しては、二〇日間の年次有給休暇が与えられるものではなく、残りの在籍期間に対応して算出される日数の年次有給休暇が与えられるものという見解をほぼ一貫して有していること、雇傭主との関係が終了することが予定されている場合、それが終了しない場合と同一の期間の年次有給休暇を与えることを雇傭主に対し義務づけることは、労働基準法三九条に基づく場合を除き、必ずしも、当事者間の衡平に資するゆえんではないこと、年度途中で退職が予定される者に与えられるべき年次有給休暇については、基本労務契約には明文の定めがなく、したがつてその日数は、右契約中の関係する諸規定の文言、従前の年次有給休暇の取扱い、契約当事者である米国及び日本国の契約事務担当者の意思、労働基準法及び年次有給休暇制度の趣旨、当事者間の衡平等諸般の事情を考慮して、決定すべきものであることなどにかんがみると、年度途中に退職することが予定されている常用従業員に対し与えられるべき年次有給休暇の日数は、基本労務契約第七章A節2中段の規定に準じ、一月から、退職することを予定される月までの期間につき、一二分の二〇の割合で与えられるものと解するのが相当である。

そしてこのように解すると、年度途中に常用従業員として採用された者も年度途中に退職することが予定されている常用従業員も、在籍する期間に応じて年次有給休暇が与えられることとなり、前年から常用従業員として在籍していたということのほか、何ら十分な理由もなく、他の労働条件についても、格別取扱上の差異もないのに、年度途中に採用された者との間に、いずれも満一年は在籍することができない者でありながら、与えられるべき年次有給休暇の日数に大きな差が生じ得るという不合理が除かれることになるのである。

なお、労働基準法三九条による年次有給休暇は、過去の労働の期間と勤務状態により、与えられるべき日数が定まるのに対し、基本労務契約により与えられる年次有給休暇は、付与される要件から見ると、逆に、過去の労働の期間及び勤務状態にかかわりなく、毎年機械的に二〇日間と定められているのであるから、年次有給休暇の与え方としては、基本労務契約によるものの方が労働基準法三九条によるものより労働者にとつて有利なものであると考えられる。そして、右のように、労働基準法の定めを上回る有利な労働契約に基づき与えられる年次有給休暇について、労働契約上、ごく例外的に生ずる労働者の退職に際し与えられる年次有給休暇の日数が、たまたま労働基準法の定めを下まわることとなつても、個々の例外的な現象をとらえて、労働基準法違反を論ずるのは相当でない。このような比較に際しては、年次有給休暇の与え方の仕組みの全体が同法の定める基準を下まわり、労働者にとつて不利益なものであるかどうかを判定すべきであり、かようにして、当該年次有給休暇の与え方の仕組みが労働者にとつて有利であり、労働基準法に違反しないものとされる以上は、右仕組みを全体として個々の労働関係に適用すべきである。したがつて、年度途中に退職することが予定される常用従業員に与えられる右休暇の日数に関しては、基本労務契約に基づくものが、労働基準法三九条と比較して、労働者に不利益となる場合が生じ得るにしても、基本労働契約の方が労働基準法三九条より、過去の労働期間及び勤務状態について厳しい要件がないだけ、労働者にとつて、はるかに有利な年次有給休暇付与の仕組みであるということができるから、基本労務契約に従つて、その日数が決定されると解するのが相当である。

ちなみに、原告らは、前認定のとおり、沖縄の本土復帰に伴い、昭和四七年五月一五日から、被告との間に雇傭関係を生じたものであり、労働基準法三九条によれば、満三ケ年を過ぎた同五〇年五月一五日において、八日間の年次有給休暇を取得し得るに過ぎないのに対し、基本労務契約によれば、同年六月三〇日に退職を予定されていたのであるから、同年一月一日から六月三〇日までの間に、一〇日間の年次有給休暇を行使し得たのであつて、年次有給休暇を行使すべき期間のちがいを考慮しても、原告らについて、右基本労務契約の解釈が労働基準法三九条に違反すると解すべき余地はないものといわなければならない。

三 前項に説示のとおり、昭和五〇年六月三〇日付けをもつて退職することが予定されていた常用従業員であつた原告らが、同年一月一日から六月三〇日までに行使し得た年次有給休暇の日数は、一〇日であると解釈すべきであり、原告ら引用の最高裁判所判決及び労働基準局長通達は、いずれも、取得した年次有給休暇の行使及びその時季変更に関するものであるから、取得すべき年次有給休暇の日数を決定するのに参考となるものではなく、他に、右解釈を動かすに足る証拠はない。右解釈によれば、原告与儀を除くその余の原告らが別紙一(a)欄記載の各日時までに、既に一〇日間(八〇時間)又はそれ以上の年次有給休暇を行使していたことは、同原告らの自認するところであるから、右原告らには、右行使した以上の年次有給休暇は、残されていないことになる。よつて、右原告らが、被告に対し、右年次有給休暇が残つていることを前提とし、これを行使したことに基づき、同一(c)欄記載の各賃金及び遅延損害金の支払いを求める本訴請求は、いずれもその余の点に触れるまでもなく理由がないことに帰する。

しかしながら、原告与儀宏充が別紙一(a)欄記載の日時までに既に行使していた昭和五〇年度の年次有給休暇の時間数は、同欄記載のように七六時間であつたことは、当事者間に争いがないから、同原告は、同年六月三〇日の退職時までに、更に、四時間の年次有給休暇を行使し得たというべきである。この点に関し、被告は、同年六月二六日、同原告に対し、四時間の年次有給休暇を与え、これに対し、賃金を支払つた旨を主張するにとどまり、原告与儀が別紙一(a)欄記載の日時に年次有給休暇を請求した際、その行使時季の変更を求めるか、又は、これに対する賃金の支払がなされるなど、原告の主張を排斥するに足る事実について、主張立証をしないのであるから、原告与儀は、別紙一(a)欄記載の日時に四時間の年次有給休暇を行使したものと解され、同原告の一六時間の賃金が金八六九一円であることは、被告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべく、これによれば同原告の四時間の賃金は金二一七三円と算定されるから、同原告は、被告に対し、四時間分の賃金に相当する金二一七三円及びこれに対する給料支払日の翌日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。

四 以上のとおりであり、原告与儀の被告に対する請求は、金二一七三円及びこれに対する給料支払日の翌日である昭和五〇年六月一三日(この点については、当事者間に争いがない。)から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告与儀のその余の請求及びその余の原告らの各請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を各適用し、仮執行の宣言については、その必要がないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(別紙一)省略

(別紙二)

基本労務契約第7章 休暇

A節 年次休暇

1 資格の取得

年次休暇は、常用従業員に与えられるものとする。

2 計算

年次休暇の権利は、満一暦年につき、八時間勤務二〇日の割合で取得するものとする。一暦年中に常用従業員として採用された従業員は、常用従業員として採用された月及びその暦年の残りの各月につき、一二分の二〇の割合で休暇を与えられるものとする。前記のようにして計算した休暇で、半日未満の端数は切り捨てるものとし、半日以上の端数は満一日とみなすものとする。

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